
はじめに|液状化対策には「予防」と「復旧」の両方が必要
2024年1月に発生した能登半島地震では、石川県だけでなく新潟県などでも地盤の液状化による被害が発生しました。
液状化によって地盤が変形すると、建物の基礎が不均等に沈下する「不同沈下」が発生し、住宅や工場、倉庫などが傾く原因となります。
こうした被害を軽減するため、現在も自治体や民間企業によって、新たな液状化対策の検討や技術開発が進められています。
しかし、液状化対策を考えるうえで忘れてはならないことがあります。
それは、「液状化による被害を防ぐ技術」と「既に沈下した建物を元に戻す技術」は、目的が異なるという点です。
地盤の液状化リスクを低減することは重要ですが、実際に建物が沈下・傾斜した場合には、建物の状態を修復するための別の技術が必要になります。
本記事では、2026年に報道・発表された液状化対策の動向を紹介するとともに、平成テクノス株式会社が手がける沈下修正技術「JOG工法」の役割について解説します。
1. 新潟市で進む地下水位低下工法の試験施工
地下水位を下げて液状化リスクを軽減する取り組み
液状化は、主に地下水で満たされた緩い砂質地盤などで、地震の揺れによって土粒子のかみ合わせが弱まり、地盤が一時的に強度や剛性を失う現象です。
そのため、液状化対策の一つとして、地下水位を下げる方法があります。
2026年10月16日付のFNNプライムオンラインでは、新潟市江南区天野地区で行われている地下水位低下工法の試験施工について報じられています。
新潟市は、曽野木ことぶき公園において地下水を集める管を設置し、2026年10月13日から地下水の排出を開始したとされています。
地下水位を地表面から約3mの深さまで下げることを目標としており、半年から1年程度かけて地下水位や地盤沈下量などを観測する計画です。
この試験では、液状化対策としての効果に加え、地下水位の低下が周辺地盤や住宅などに与える影響を把握することも重要になります。
検証結果は2027年秋ごろに報告される予定とされていますが、現時点では試験・検証の段階です。
地下水位低下工法の役割
地下水位を下げることは、液状化が発生しやすい地盤条件を改善するための方法の一つです。
ただし、地下水位の変化によって地盤沈下が発生する可能性にも配慮する必要があり、地盤条件の調査や継続的な観測が欠かせません。
このような対策は、街区など一定の範囲で将来の液状化被害を軽減することが目的です。
出典:
- FNNプライムオンライン/NST新潟総合テレビ(2026年10月16日)
- 新潟日報(2026年10月15日)
2. 積水化学工業が新たな地盤改良技術を発表
自己修復性を備えた地盤改良技術の開発
液状化対策では、地下水位の制御だけでなく、地盤そのものの性質を改善する技術も研究されています。
積水化学工業株式会社は2026年9月11日、名古屋大学の吉田英一教授との共同研究開発による「自己修復性コンクリーション化技術」を発表しました。
同社の発表によると、この技術は自然界で形成されるコンクリーションの仕組みを応用し、地盤に専用の薬剤を注入することで、岩盤や未固結地盤の緻密性・止水性を高めるものです。
また、自己修復性を利用して長期的な性能維持を図ることも開発目標とされています。
積水化学工業は、岩盤・未固結地盤を対象とした世界初の技術と説明していますが、これは2026年9月11日時点の同社調べによるものです。
液状化対策への応用も検討
この技術の想定用途には、トンネル周辺の漏水対策、法面安定化、土壌汚染対策などとともに、液状化対策も含まれています。
同社は2027年度下期の実用化を目指しているとされていますが、現時点では開発段階であり、液状化対策としての現場採用や効果が確立されたことを意味するものではありません。
今後の研究開発や実証によって、適用条件や長期的な性能が明らかになることが期待されます。
出典:
- 積水化学工業株式会社プレスリリース(2026年9月11日、PR TIMES掲載)
3. 液状化の予防対策だけでは、傾いた建物は元に戻らない
ここまで紹介した地下水位低下工法や新たな地盤改良技術は、いずれも地盤の状態を改善し、液状化による被害を軽減することを目指すものです。
しかし、既に地震などによって建物が沈下・傾斜している場合には、事情が異なります。
例えば、液状化によって住宅の片側が50mm沈下したとします。
その後、周辺地盤に液状化対策を実施したとしても、既に生じた建物の傾斜が自然に解消されるわけではありません。
また、工場や倉庫では、わずかな不同沈下であっても、床の不陸や設備の位置ずれ、シャッターの開閉不良など、建物の使用に支障をきたす場合があります。
このような状態を改善するには、地盤の対策とは別に、建物の沈下量や傾斜を調査し、必要に応じて基礎の高さを修正することが重要です。
液状化への対応は、次のように目的を整理できます。
| 対策 | 主な対象 | 目的 |
|---|---|---|
| 地下水位低下などの予防対策 | 街区・地盤 | 将来の液状化リスクの軽減 |
| 地盤改良技術 | 地盤 | 地盤の性質や性能の改善 |
| 沈下修正技術 | 既存建物・構造物 | 発生した沈下や傾斜の修正 |
つまり、地盤を液状化しにくくすることと、沈下した建物を水平に戻すことは、別の技術的課題なのです。
4. JOG工法とは?沈下した建物を復旧する技術
基礎下への特殊グラウト注入による沈下修正
平成テクノス株式会社が開発した「JOG工法(ジャッキング・オン・グラウト工法)」は、不同沈下によって傾いた建物や構造物を修正するための工法です。
建物の基礎下の地盤に特殊なグラウト材を注入し、地盤中に形成される反力支持体と、その後の注入に伴う反力を利用して、沈下した基礎を徐々に押し上げます。
一般的な地盤改良が地盤そのものの性質を改善することを主な目的とするのに対し、JOG工法は既存構造物の沈下・傾斜を修正することを主な目的としています。
多点インターバル注入によるミリメートル単位の修正
JOG工法の特徴は、複数の注入ポイントを設け、注入位置を順次切り替えながら少量ずつ繰り返し注入する「多点インターバル注入」です。
建物の沈下状態は場所によって異なるため、すべての位置を同じ量だけ持ち上げればよいわけではありません。
沈下量が大きい部分には必要に応じて注入量を増やし、建物全体の変位を計測しながら、水平状態への復元を図ります。
このように注入位置・注入量・変位を管理することで、ミリメートル単位での沈下修正を行います。
住宅から工場・倉庫などの構造物まで
平成テクノスでは、これまで住宅や工場、倉庫、各種産業施設など、さまざまな構造物の沈下修正に取り組んできました。
建物が沈下した場合、必ずしも建て替えが唯一の選択肢になるわけではありません。
基礎形式や構造物の状態、地盤条件などが適合する場合には、既存の建物を活用しながら沈下・傾斜を修正できる可能性があります。
ただし、JOG工法はすべての建物に適用できるものではありません。
特に、基礎の剛性や強度、地盤条件、地中の埋設物、構造物の損傷状態などを事前に確認する必要があります。
また、沈下修正によって建物の傾斜を改善することと、将来の液状化被害を防ぐことは同じではありません。再液状化のリスクがある場合には、必要に応じて別途対策を検討することが重要です。
5. 液状化対策は「被害を減らす」と「被害を直す」の両面から考える
液状化による被害を軽減するためには、地震発生前の対策が重要です。
一方で、すべての土地や建物に対して、事前に十分な液状化対策が実施されているとは限りません。
実際に建物が沈下・傾斜した場合には、被害の状況を正確に把握し、構造物の安全性や今後の使用条件を踏まえた復旧方法を選択することが求められます。
液状化対策を考える際には、次の2つの視点が欠かせません。
- 予防・被害軽減: 地下水位の管理や地盤改良などによって、液状化による被害をできる限り抑えること。
- 被災後の復旧: 既に沈下・傾斜した建物について、状況に応じた方法で機能や水平状態の回復を図ること。
平成テクノス株式会社は、このうち既存構造物の沈下修正という分野で、JOG工法による技術的な対応を行っています。
まとめ|液状化対策と沈下修正は、それぞれ異なる役割を持つ
2026年には、新潟市による地下水位低下工法の試験施工や、積水化学工業による新たな地盤改良技術の発表など、液状化被害の軽減に向けた取り組みが報じられました。
これらは今後の地盤防災を考えるうえで注目される動向ですが、試験・開発段階の技術については、検証結果や実用化の進展を慎重に見ていく必要があります。
一方、既に建物が不同沈下を起こしている場合には、予防技術とは別に、建物の復旧を目的とした沈下修正技術が必要です。
JOG工法は、基礎下への特殊グラウト注入によって、沈下した構造物の水平状態への復元を図る技術です。
液状化による被害を未然に軽減すること。そして、被害が発生した建物を適切に復旧すること。
この両方の視点を持つことが、建物や施設を長く安全に使用するために重要だと考えます。
平成テクノス株式会社では、建物や構造物の沈下・傾斜に関するご相談を受け付けています。沈下の状況や基礎形式、地盤条件などを確認し、施工の適用可能性を検討いたします。
参考資料・出典
1. 新潟市の地下水位低下工法に関する報道
- FNNプライムオンライン/NST新潟総合テレビ(2026年10月16日)
https://www.fnn.jp/articles/-/1133816 - 新潟日報(2026年10月15日)
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/925005
2. 自己修復性コンクリーション化技術に関する発表
- 積水化学工業株式会社(2026年9月11日)
「岩盤・未固結地盤分野の社会課題解決に向けた新技術『自己修復性コンクリーション化技術』『3D光ファイバセンシング技術』の開発について」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000358.000099121.html
3. JOG工法に関する技術資料
- 平成テクノス株式会社「JOG工法・沈下修正工法に関する技術解説、施工事例」
https://heisei1.jp/ - 静岡県「不同沈下構造物復元特殊JOG工法」
https://www.pref.shizuoka.jp/machizukuri/kokyokoji/shingijutsu/1003511/1029106.html
※新潟市および積水化学工業の取り組みは、それぞれ独立した事例として紹介しています。平成テクノス株式会社またはJOG工法がこれらの事業・技術開発に関与しているものではありません。